沼津の平作(No.8)と原の呉服屋重兵衛(No.9)はいずれも三大仇討の一つとされる史実の事件「伊賀上野の仇討」を題材とした演目『伊賀越道中双六』の「沼津の段」に登場する情と義理の間で板挟みとなる親子です。和田志津馬の父の仇、沢井股五郎(No.31)に味方する重兵衛は東海道沼津宿のはずれで貧しい人足の平作とその娘のお米(No.71)に出会います。お米は敵対する和田志津馬の妻ですが、平作とお米が自身の実の家族であることに気づいた重兵衛は名乗らずに金を残して去ります。重兵衛が実の息子で、さらに敵方であると知った平作は後を追い、命を捨てて仇の行方を聞き出します。
平作は本シリーズ刊行時にすでに故人であった二代目嵐猪三郎、重兵衛は五代目沢村長十郎として描かれており、この配役での「沼津の段」は天保11年(1840)5月中村座で上演されました。
これは『役者見立東海道五十三駅』というシリーズです。
このシリーズは、全部で一四〇点確認されています。
作者は三代豊国、とても人気の高かった絵師です。
背景には宿場の風景が描かれており、手前の人物は、宿場と関わりのある歌舞伎の登場人物です。
また人物は、有名な役者の似顔絵で描かれています。