制作時期:万延元年(1860)1212月。
板元:相卜
七里ガ浜の小動崎の付近を牛の背に揺られながら江の島に向かう光の君、画題には「七里ヶ浜遊覧之図」としかありませんが、図様は柳亭種彦作、歌川国貞(三代豊国)画の大長編合巻『偐紫田舎源氏』全38巻の文政12年(1829年)から天保13年(1842年)にかけて刊行された、略称『田舎源氏』の主人公光の君が七里ガ浜を遊覧しているところを描いている見立絵です。田舎源氏は『源氏物語』を草子形式に翻案したもので、「偐紫」は似せ、偽紫式部で「田舎」は卑俗なまがい物の『源氏物語』を意味します。この田舎源氏は刊行以来大変な人気を呼びましたが、天保の改革で筆禍を受けて中絶し、著者種彦も没してしまいますが、水野忠邦失脚後に復活します。そして原作挿絵の名場面を錦絵化して刊行し、いわゆる「源氏絵」の流行となり、歌川派の絵師のほとんどがこの画題を手掛けています。また歌舞伎にも採用され、「内裡模様源氏紫」(天保9年)、「東山桜荘子」・「源氏模様娘雛形」(嘉永4年)などがあります。これらのうち浄瑠璃「名夕顔雨の旧寺」は「古寺」という名で現在も上演されることもあります。版画の作例として最も早いものは、初代国貞の「偐紫田舎源氏」(大判、天保期)が数種出版されています。また「亀戸天満宮奉納田舎源氏額面写」(天保10年刊)があります。