制作時期:天保2年(1831)頃。
板元:永寿堂
北斎を代表する揃物作品「冨嶽三十六景」のうちの一図です。
七里ヶ浜の景色でありながら、浜辺は省略され、画面中央に木が高く聳える島と富士が大きく描かれるという珍しい構図になっています。中央の木の生えた島は江の島として描かれたものか、小動岬として描かれたものは判然としません。おそらく北斎は、このシリーズにおいては実景を描くことよりも、富士を印象的に見せる構図を作り出すことに意識が向いていたのでしょう。
また作品全体が青の色調で摺られた「藍摺り」となっています。この青色には舶来の染料、ベルリンブルー(通称「ベロ藍」)が多用されており、新しい時代の色彩を作り出すという試みの作品でもあったと考えられます。
冨嶽三十六景シリーズのうちの1枚。いわゆる藍摺りといわれるもので、しかも漢画的要素が強く、一般的な浮世絵とは感覚を異にしています。また制作年代も近頃の研究で、従来の文政年間より少し時代の下がる天保2年が定説となりつつあります。