浜辺から海浜一帯の景観を描いています。画面前景には松が植わる海浜、後景には山が連なり奥行きの深い画面構成です。広々とした水景が広がり、陸には人物や馬、舟が描かれています。画面に点在する松はどれも異なる形状で描かれ、ぐにゃりと曲がる様は、今にも動き出しそうです。
松並木は街道を往来する旅人にとって道しるべでもあり、日陰をつくるだけでなく、風雨から身を守り、休息の場にもなりました。この作品が描かれた場所は特定できませんが、東海道を始めとする街道沿いには、こうした松並木が多く植えられています。
作者の伊村栄以(1798?-1863)は幕末水戸藩の絵師で狩野派・晴川院養信(1796-1846)の門弟です。「山内伊村」と表記する場合もあります。栄以に関しては多くが謎に包まれていますが、天保12年(1841)5月9日に徳丸原で行われた西洋式の砲術訓練の様子を詳細に描いた『高島四郎太夫砲術稽古業見分之図』(板橋区立郷土資料館蔵)が知られています。